特注であるリボルバー式のホワイトゴールドが黒い毛が密集する頭に押し付けられた。
は頭の5センチ近くで引き金を引きかけたまま静止。
割れた窓から肌寒い風が吹き込んできて、銀色の髪を弄んだ。
遅ればせながら無数の金属音が響き渡り、ライフルやら拳銃やらが突き付けられる。
どれもこれも大量生産の安物だ。全くボンゴレの名を汚してくれる。
彼女は反吐が出ると顔をしかめた。
奥の薄汚れたソファでは、茶髪のうら若い青年が寝息を立てている。バルビタール系の麻酔だろう、恐らくは。
ボンゴレの頭領たる青年が薄汚れたソファに寝かせられていることにも彼女は閉口した。
同盟ファミリーによる反乱。
警戒心の弱い十代目はまんまと罠にかかって、囚われの姫君となってしまったわけだ。
どよめく雲雀除く守護者たち。骸は天が与えた幸運に、密かにほくそ笑んでいたのではないか。
いや、自らの獲物を掠め取られて、怒りが煮え滾っていただろう。
他の幹部も交えた緊急会議はまとまるところを知らず、終わりはないかのように思われた。
おそらく幹部のうちの何人かは買収されていたに違いない。
帰っても彼らはもういないだろう。
留めておくと約束したうちの、最も凶暴な獣が網から逃げ出したと知ったなら、自分の身を隠すことが賢明だ。
残り香すら隠しきれるというならだが。
見つけたのは我ら二大ファミリーに比べれば、あまりにお粗末なセキュリティーと人員を秘めた屋敷だった。
中に踏み込んで気付いたが、彼らは中小ファミリーであっても、反乱分子は中々に団結力が強かった。
己一人でどうにかできるレベルの問題ではないと、さすがの彼女にも分かった。
何せ幼少の頃からこの世界で血を啜ってきたのだ。いくら一人であるファミリーを壊滅させたことがあっても、長年の経験で判断がつく。
当時も無傷では済まなかったし、今はボスの身。若さゆえの過ちでは済まされない。
引くべきかもしれない。そう思った。
だがは十代目誘拐の事実をおおやけにしたくはなかった。
ならば仕方ない戦争だ。
高価なワイシャツにはここに来るまでに浴びた返り血が染み付いている。
その顔にも細かく赤い斑点が飛び散って、よりいっそう視線の冷徹さを引き立たせていた。
白い肌とどす黒い血痕が美しい。
スーツに幾らかの穴が開いているが、下に着込んだ防弾チョッキによって多少の痣などありそうなものの、ほとんど無傷と言ってよかった。
防弾チョッキを着ていても、銃弾を受けても怯まない。むしろその分を返してくる。
それが男たちには恐ろしい。
ボンゴレと肩を並べるノッテのルナであることだけではない。
その超人的な身体能力だけではない。
表情が消えたビスクドールのような顔。死神と呼ばれるにふさわしい。
不機嫌な彼女は赤黒く染まったネクタイをはずしてそこらへ投げ捨てた。
だが照準は全くずれない。
引きつった男の顔を汗が伝う。
白魚よりしなやかな指が安全装置をはじく。
の余裕の表情とは正反対に、追い詰められた鼠のようだ。
小汚い手でよくもドン・ボンゴレに触ってくれたな。貴様がいるべき場所はこの世界じゃない。
彼女は紅唇をゆがめて、恐怖に震える男に軽蔑の視線とともにその言葉を贈った。
死んでしまえ、お前なんか。
そのあとは鉛玉が風を切る音だけである。
重い瞼を嫌々ながらも持ち上げると、銀色の光が目を刺した。そのあまりの眩しさに慌てて目を伏せると、額を冷たい何かが通り過ぎた。
「ツナ」
母親が子供をあやすような声だと思った。
再び目を上げると今度は裸電球に照らされた白っぽい拳銃が見てとれた。
氷を思わせる冷たさは彼女の手だった。
気温と反対に汗ばんでもつれた髪を彼女がかきあげてくれていたのだ。
冷感が心地よくて頬をすりよせた。
その向こうには柔らかな笑顔を浮かべたの顔。
そのうすら青い唇から芍薬のように紅い液体が一滴。そして血の気を失った頬には無数の掠り傷。
生暖かな液体が目尻に落ちると同時に、水を垂らしたように意識が一気に覚醒した。
「あ・・・、」
恐る恐る頬に触れるとぬるりとした感覚が全身を貫いた。圧倒的な存在感を放ってそれはオレの頬に指一本ほどの太さの線を引いた。
それでも月の聖母のような微笑みは変わらない。
「ごめん、ごめん、オレは」
「何故お前が謝る?」
半ばすがりつくようにオレはベルトで縛った袖口を掴んだ。バックルは粉々に弾け飛んで、情けなく欠片がへばりついているだけだった。
彼女の身だしなみがここまで乱れるのは見たことがない。
髪留めは切れて銀の髪はまとまりがなくなり、至近距離からの銃撃に耐えかねたベストの穴から血がボタボタと滴っていた。
それでも表情を変えない彼女の精神力は切なすぎた。何よりもオレを守るために。
数十人ものオレやの部下が反乱ファミリーを攻撃するが、彼女は誰よりも早く、きっと一人で来たのだ。
じゃなきゃ彼女が傷を負うのを誰が許すというのだろう。
「心配するな。すぐ終わる」
ささやくように言ったその言葉。
ひっくり返ったソファにすがりながらは立ち上がった。
ああ、ああ、オレが不甲斐ないばっかりに、いつも彼女が傷付くのだ。
神への盲目的な信仰を持って、そしてオレの罪をその愛で覆おうとするかのように。
罵声と悲鳴と硝煙と血との匂いが充満する穴だらけのコンクリートの上で、オレは信じられないほど細い腕を捕まえた。
そして不安なときに彼女がしてくれるように柔らかく甘いキスを彼女に送った。
そして青年ハ血涙を流ス_
<あとがき>
深読みプリーズ!
これは雰囲気だけで読む小説です。深く考えてはいけません。
なんとなく雰囲気のある文を書きたかっただけなんです……(恥